「干し柿」
私が10代のころ位までは冬になるとよく軒下に干し柿をつるした風景を目にしたものです。
渋柿に焼酎を振りかけて渋を抜き、皮を剥いてヘタに藁で編んだ細い縄に6,7個の柿を縊りつけ竹竿につるし、外気にさらします。霜にあたたった柿は程よく水分が抜け、白く粉を吹いた干し柿はやや硬めながら、それはもう甘いこと。そんな干し柿、田舎の家で作っている風景はすっかり見なくなりました。
宮城県丸森町。県南部に位置し人口約1万2千名、阿武隈高地に囲まれた盆地には有名河川阿武隈川が流れる自然豊かな静かな町で、佐藤ファームの佐藤靖さんはここ丸森町で古くから続く養蚕(ようさん)と干し柿をメインの農業を家族で営んでいます。
皆さん養蚕ってピンとこない人も今や多いと思いますが、明治初期から昭和初期にかけ国内屈指の主要産業の一つだったんですよ。カイコガ科の昆虫、蚕(カイコ)が吐き出して作る繭玉から絹糸を作る産業のことを養蚕といい、農家ではカイコの餌になる桑を栽培して、蚕の幼虫を育てます。その成長の途中、幼虫が蛹(サナギ)になるときに繭玉を作るんですが、その繭玉の繊維から作られるのが絹糸です。絹の独特なしなやかさ、光沢の美しさから高級品とされ、権力者への献上品だったころも。化学繊維に頼らない手作りの絹は今や貴重な逸品となりました。
その養蚕と干し柿作りの後を引き継ぎ、2005年から佐藤さんは実家で農業一筋家族と共に生産をしていますが、数十件あった養蚕も今や数えるほどに。5代目となる佐藤さんは衰退してはならぬと伝統ある養蚕技術を継承し、干し柿の生産と同時に時世へと残すことも視野に入れ、干し柿を使った若者向けの商品開発も行っています。
これから佐藤さん手作りの干し柿を紹介しますが、使われる柿の品種は渋柿の蜂谷柿で、特に大き目のサイズのみを厳選して干し柿にしているんだとか。通常皮剥き後40日の出荷のところ、70日以上乾燥します。そうすることで甘味の濃縮した出来上がりになり、外皮はもっちり、しっとりで、果肉はとろ~り!あんぽ柿に近い仕上がりになるんだとか。歯ごたえと中の柔らかさを楽しめる3月までが食べごろ。
そうなんです。3月まで・・・出荷ギリギリ、本当に希少な残り少ない干し柿をお送りくださった佐藤さん、感謝です。さてその干し柿これよりいただいてみたいと思います。
11月に入ると干し柿 がぶら下がる風景が町内の随所で見られ、丸森の風物詩にもなっていますが、その風景を想像しながらの干し柿はそれはもう格別そのもの。
口にいれ噛んでみると瑞々しく、甘い。極上の甘さとはこのこというんでしょう。そして鮮やかな果肉から放たれる色の綺麗なこと。老若男女問わず、このやさしい甘さはきっと大好きになるはずです。だって手を加えない自然の甘さなんですから。
Youtube 動画 こちらをクリック↓
https://www.youtube.com/watch?v=rsS0iox7fpQ
日本全国で激減している養蚕業、そして干し柿の生産。ご苦労もあろうかと思いますが、まだまだ無くしてはいけない日本古来の技術で成された製品、その技術を継承し次の世代へと受け継いでほしいです。
※干し柿は寒い時期からの季節商品です